母親の容体悪化をブログに記録 殺人未遂の少女 (朝日新聞)
母親を劇物のタリウムで殺害しようとしたとして、殺人未遂の疑いで逮捕された静岡県東部の県立高校1年の女子生徒(16)とみられる人物が、母親の容体が悪化して入院するまでの経過などをブログに書き込んでいたことが1日、静岡県警の調べでわかった。男性名で書いており、一部に想像や架空の話が含まれている可能性があるが、県警は事件の状況や動機の解明につながる手がかりになるとみて、分析している。
ブログは6月下旬から10月中旬まで続いていた。8月中旬から下旬にかけての書き込みには「眩(まぶ)しいほどに晴れ、酢酸タリウムが届きました。薬局のおじさんは医薬用外劇物の表示に気づかず、必要な書類を通すことなく渡した」とあった。タリウムの水溶液を過って指に付け、腹痛になったとの記述もある。
8月19日には「昨日から母の具合が悪いです。全身に発疹が起こり……」と書いている。9月12日には「ついにほとんど動けなくなってしまいました」。さらに10月2日に母が入院したとあり、症状が出始めた時期、入院時期ともに警察の調べと合致している。
ほかに毒物を使った動物実験の記録なども書かれていた。同級生に嫌われているとの認識や孤独感に触れた記述もある。 1日に記者会見した校長は、生徒が所属していた化学部の顧問から聞いた話として「生徒は特に薬品関係に興味をもっていたようだ」と語った。
事件そのものの背景も興味深いですが、タリウムという(私には)馴染みが薄い物質が使われたことに驚きました。個人的に毒物に興味があり、今まで色々調べてきたのですが、恥ずかしながらタリウムの性質について無知だったのです。
少し調べてみました。以下、備忘録的にメモしておきます。
まずは元素としてのタリウムの諸性質を。タリウムのデータ(杉並学院)からところどころ引用します。、
タリウム【thallium】 ※ギリシャ語の緑の小枝にちなんで命名。
原子番号=81,原子量=204.3833, 元素記号=Tl
周期表の13族に属す。白色金属。
ハロゲン とは直接反応する。原子価は+1価および+3価。 水素 ・ 窒素 ・ 炭素 とは直接化合しない。ハロゲン化物・シアン化物・硫化物は水に溶けない。硫酸塩・炭酸塩は水に溶ける。錯塩をつくる。天然にはわずかにしか存在しない。
主として硫化鉱物中に産出する。硫酸塩は、殺鼠剤・殺蟻剤に用いられる。可溶性塩は有毒。易融合金、耐食性合金に用いられる。
γ線のシンチレーター(蛍光体に放射線が照射されたときに発光する現象をおこす蛍光体のこと。)としてヨウ化ナトリウムの結晶に0.1%程度加えられる。
周期表を見ると、有毒なことで知られる水銀と鉛の間にあります。
一般に、この辺の重金属は体内に蓄積しやすいので大なり小なり毒性を持つのですが、特にタリウムの硫酸塩の毒性は重金属の中でも最強レベルだそうです。「タリウム(thallium)の毒性」(医薬品情報)から、毒性と症状の項を引用しておきます。
毒性
◆劇毒区分=劇物(0.3%以下は指定しない)。魚毒性=A類。ヒト経口致死量:1g、ヒト経口最小致 死量:3mg/kg。服用による血中濃度のピークは2時間後、血球に取り込まれる。分布容量は1-5L/kg。尿便中に緩徐に排泄される。半減期は1.7 日(17g服用例)。
◆組織細胞内でカリウムと置換し、細胞膜を低カリウムの状態で分極させる。スル フィドリル(SH基)酵素と結合し、その酵素活性を阻害する。システィンなどの蛋白合成を阻害。
◆タリウムは消化管、皮膚、呼吸器から吸収される。消化管からの吸収は速やか で、全身の臓器に分布する。ゴム手袋の装着に係わらず経皮吸収されるので、取扱いには十分注意する。
症状
◆通常、12-24時間後に発症し、初期症状は主として消化器症状と神経症状。
*少量摂取では嘔気、嘔吐、食欲不振、上腹部痛、感覚障害、筋力低下、運動失 調、ことに失調歩行、振戦、多発性神経炎(下肢の疼痛)。
*重篤な場合、上記症状に加え、発熱、譫妄、痙攣を起こし、肺炎、呼吸抑制、循 環障害で死亡。
*その他の症状として、脱毛(1-3週間後)、腎障害(蛋白尿、円柱、血尿、乏 尿)。
◆ヒトにおける中毒症状は、経口摂取直後から1-2日目は吐き気、嘔吐、食欲不 振、口内乾燥感、口内糜爛、口内炎、歯齦(肉)炎、鼻漏、結膜炎、眼と顔面腫脹、下痢、腹痛、不眠症、難聴、視野暗転、手足の刺痛及び疼痛。
*経口摂取から数日後に重い口内炎、筋肉麻痺、3週間目には爪の萎縮、神経及び 精神障害、譫妄、痙攣、昏睡、窒息死が起こる。タリウム中毒に特徴的な症状として脱毛がある。
◆硫酸タリウムは極めて危険である。鼠にのみ選択的に毒性を現すのではなく、多 くのヒトもタリウムにより中毒症状を惹起されるので、その使用は現在多くの国で厳重に規制されている。急性中毒では、消化管の痛み、運動麻痺、呼吸障害による死亡が見られる。一定時間以上の間、致死量に近い量を与えると、皮膚が赤みを帯び、タリウム中毒の特徴である脱毛が起こる。
◆病理上の変化では血管周囲への白血球集合、脳、肝、腎の退行性の変化があげら れる。神経症状は顕著で、振戦、足の痛み、手足の知覚異常、特に足の多発性神経炎が見られる。また精神病、譫妄、痙攣、その他の脳疾患も見られる。
青酸とは異なり急速に死ぬことはないようですが、経口致死量1gというのは「劇物」としては強い毒性。ちなみに青酸ソーダの経口致死量は0.15〜0.2gほどです。アガサ・クリスティの小説にも登場しているそうですが、該当作品は未読。
個人的に社会的にも波紋は大きいですね。
私が疑問に思うことは、
この少女が数ある薬品の中からタリウムを選んだこと
そして、殺人計画の対象に自分の母親を選んだことです。
タリウムについて、色々と調べてありますね。
非常に参考になります。