2005年06月26日

日中関係と日米関係

今朝の読売新聞のコラム「地球を読む」は、「「靖国」日本の岐路」と題したJR東海会長の葛西敬之氏の文章でした。典型的な靖国参拝賛成保守派の主張。気になる点が3つほどあったので、論評してみます。残念ながら「地球を読む」はWebには載らないので、新聞記事を部分的に引用しながら書いていきます。

なお、私自身は、「首相が靖国参拝をしたいならすれば良いが、その代わり国益を損なわないように責任を持つべし。国益に配慮するなら参拝しないのがbest」と主張するタイプの保守派を自認しています。詳しくは、以下の過去エントリをご覧ください。
靖国問題と為政者の責任
「内政干渉だ」では説得力が無い
靖国神社が分祀を拒否
追悼施設への反発
昭和天皇の歴史認識

葛西氏は、最初に5月中旬に中国の呉儀副首相が小泉首相との会見をドタキャンした件について、「小泉はもうどうでも良い」「次期首相は中国が容認できる人物を」という意思表示であろう、と述べています。この辺は私も同意できます。しかし、次の記述には同意できません。
靖国問題は中国の意向に日本が屈するか否かを測る踏み絵である。従って小泉首相はもちろん、次期首相も個人的な信条はどうであれ靖国神社を参拝し続けなければならない。アジア・太平洋の覇権を狙う中国にとって日本の世論を分断し、日米を離間することは基本中の基本戦略であり、靖国はそのための小道具に過ぎない。靖国で譲歩すれば中国は自信を強め、新しい図柄の踏み絵を提起してより一層の世論分断を図るだろう。

靖国支持保守派に典型的な「靖国問題は中国の外交カードに過ぎず、本当の狙いは別なところにある」説。確かに外交カード的な面はあるのかも知れませんが、中国の靖国参拝反対は単なる戦術に留まらない本気の主張でもあるはずです。自国を侵略して殺戮行為を行った国の戦争指導者をリスペクトすべきではない、という発想は不自然ではないからです。だから、首相が靖国参拝を中止すれば反日感情は確実に和らぐと思います。

ところで「個人的な信条はどうであれ」は酷いと感じました。個人の信教の自由の軽視ではないかと。以前台湾先住民の合祀取り消し要求(改訂版)に書いた通り、靖国神社や一部の靖国支持者は靖国が他の宗教と別格であると考えているフシがあります。こんな宗教観には同意できません。それとも、葛西氏は「首相の信教の自由は制限されるべし」と思っているのでしょうか? それなら私は、国益を考えると首相の靖国参拝は中止すべきである、と改めて主張しておきます。

靖国支持保守派の人たちは、靖国問題になると国益以外のプライドのようなものに依拠する傾向があると感じます。私が「靖国問題は宗教論争なので、相手の主張に論理的に納得するのは不可能」と考える根拠の一つはこの点にあります。

さて、葛西氏のコラムは、日本の過去の歴史を振り返りつつ、現在すなわち21世紀初頭は4度目の決断のときだと主張しています。政、財、官の一部に、中国との連携を強化し、米国と一定の距離を置こうという考え方があることを指摘し、次のように異を唱えます。
それは敗戦後60年間一貫して国策の基本とされてきた原則、すなわち自由主義、民主主義、及び太平洋の同盟を転換することである。しかしその重大性については政・財界の指導者の認識は薄い。

日米同盟の重要性については、私も同意します。しかし…
拡大する中国市場を当て込んで多額の資本を投下した企業は、中国との宥和を最優先課題と考える。しかし現実を直損すれば、中国は共産主義国家であり、過去60年の歴史は対ベトナムをはじめとする侵略と内紛の連続であった。

共産主義国家に投資して利益を得ることに問題があると考えているようですが、私はそうは思いません。共産主義国と取引することと、共産主義に共感することとは全く別です。中国に投資する日本企業と中国経済とは、経済的には互いにwin-winの関係にあります。この関係に水を差すことの方が、よほど反資本主義、反自由主義的だと思います。また、日本は希少金属タングステンなどの貴重な資源を中国に依存していることも無視してはならないでしょう。

葛西氏は、次のようにコラムを結んでいます。
靖国問題は歴史認識の問題、戦争責任の問題として中国により提起された形となっているが、実はどれだけ米国から離れ中国寄りになるかの踏み絵として定期されていることを見誤ってはならない。

え? 靖国問題で中国に“譲歩”すれば日米同盟に支障をきたすんですか? 日米関係と日中関係はそこまで二律背反的なものでは無いはずです。中国は、政治的には多くの問題を抱えています。だから政治的には距離を置いた方が良いと私も思います。だからと言って、積極的に関係を悪化させようとする必要はないと思いますし、万一経済関係まで険悪になったら国益を損なうと思うのですが……

要するに、日米同盟最重視を大前提にしつつ、同時に中韓を含めたアジア諸国との関係も極力悪化させないように務めるのが、現時点での“国益”を考えるとベストであり、そのためには、靖国などの歴史認識問題はあらゆる諸外国が同意できる形で決着をつけることが必要であると私は思うのです。
posted by D Slender at 14:53 | シンガポール ☁ | TrackBack(0) | 社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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